伏徳
その日あの場所を通ってなかったら、たぶん今の関係はなかっただろう。
徳西視点
綺麗な声。
一体この声はどこから?
そう思った時にはもうその声の場所に僕は立っていた。
「路上……ライブ?」
この人見たことないな。
もしかしたら、新人さんとかかな。もしそうだったら僕と同じだな。
~~~♪
綺麗な声なのに力強い歌声、それに一緒に弾いてるギターがまた合ってて……
「すごい……。」
思わず口からこぼれていた。
恥ずかしくなって口を覆うと彼はにこっと笑いかけてくれた。
その表情もこの歌声があるからなのかキラキラして見えた。
「ありがとうございました。」
すべての曲が終わったようだ。
歌も上手いし、ギターの演奏も上手だった。きっとこの人はプロの方なんだろう。
あ、そうだ。一応最後まで聞いてるんだし声かけておこうかな。
「あの……」
「えっ?!あ、さっきまで見ててくれた方…ですよね?」
「はい!すごく演奏も歌も上手でした!……プロの方だったりしますか?」
「あ、いや。ただの一般人です。たまにここら辺で弾き語りしてるんですよ。」
プロの方じゃなかったんだ……!!恥ずかしい!!
どうしてこんなに上手なのにプロじゃないんだろう……?
「あ、プロの方なんじゃなかったんですね。あんまりにも上手だったんでプロの方かと思いました。」
「あ、そうですか……。」
どうしよう、反応が薄い。もしかして何か気に触ることを言ってしまったんだろうか。
「あの!
「ありがとうございます。そんなふうに言ってもらったの初めてで……どう反応したらいいのかわかんなくて、その、ありがとうございます。」
ふわっとした笑い方に綺麗な声。
さっき歌ってた人と別人なんじゃないのかっていうくらい違う!
この人本当に何者なんだろう……。
「いえいえ、あ……またここで会えますか?君の歌声また聞きたいなって……」
「はい、不定期ですけどここで歌ってますよ。」
「わぁ!本当ですか?嬉しいなぁ。」
「そう言ってもらって俺も嬉しいです。もう、夜も遅いですし帰り気をつけて下さいね。」
「はい、今日はありがとうございます。」
「では、またどこかで。」
彼はそう言って去っていった。
すごい歌声には合わない爽やかな感じの人だったな。僕も彼の爽やかを見習わなきゃ。
「あ、そういえば名前聞き忘れたな。」
~3年後~
僕は、朝の情報番組の準MCになっていた。メインではないものの、視聴者にそこそこ顔は知られてきている。それどころか少し人気が出始めている!!
このチャンス逃すわけには行かない。
最近はそんな風に過ごすようになっていた。
「徳西さん、お疲れ様でした!」
「あぁ。お疲れ様。」
最近同僚にも気さくに話しかけてもらえているし。……今の自分にはすごく運がついている気がする!!
さぁ、今日も家に帰って早く寝なきゃ。明日も視聴者の皆様に徳西秋声を届けなければいけないんだ。
結局、あの日以降彼に出会うことはなかった。何回かというか何度もあの場所を通ったけど、彼の姿はなかった。タイミングが悪かったのか、それとももう歌うのはやめたのか。全てが謎のままだ。あぁこんなことなら名前聞いておけばよかったな。
「「うわっ!!」」
色々と考え事をしていたせいで人にぶつかってしまった。
慌てて相手の顔を見た僕は言葉を失った。
「ったぁ。あ、すみません!!大丈夫っすか?!」
彼だ!!あの時の彼だ!!絶対にそうだ。ここにいるってことは、プロになったのかもしれない!!
こんなところで再開できるなんて……!!
「はい、大丈夫ですよ。私の方こそ悪かったね。君、大丈夫?」
「俺は全然平気っすよ!!本当すみませんでしたっ!!じゃ、俺急いでるんで!!」
走り去っていった。
いや、それが問題ではない。彼が、あの爽やかだった彼が……!!!なんか全然違う人になってる!れ